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COLUMN

色をあやつる陶芸作家 / 長谷川哲也氏 インタビュー

京都都伝統工芸専門学校で陶芸の基礎を学んだ後、沖縄にて山田真萬氏の元で5年修行し読谷山焼を習得した、陶芸作家の長谷川哲也さん。独特の柔らかい色味と、手挽きにも関わらず均一性のある美しいうつわは多くの人を魅了します。人柄がそのまま表れたような優しくて温かみのある、長谷川さんのうつわたち。今回は宇治の市街地から山奥へと車で20分走らせ、目の前に茶畑が広がる自然豊かな場所にある工房にお邪魔し、うつわのこと、ご自身の作陶への思いなど伺ってまいりました。

 

取材:Eriko Nakagawa

 

 

 

沖縄での修行で築いた、独自の作風

 

通常うつわ業界は、器の素となる生地をつくる人、器の形にするための型をつくる人、色をつける人、焼き上げる人・・・といった具合に、分業で成り立っています。そんな中長谷川さんは、沖縄・読谷山焼を学んだ影響から自ら釉薬(ゆうやく:器の耐水性を増すことを目的とし、陶器の表面にかけるガラス質の成分をもったうわぐすりのこと。)を作り出しています。同様に釉薬を自身でつくる作家は他にもいるものの、長谷川さんのようにテストピースまで作ってしまう作家は少ないのだとか。「釉薬」に対する長谷川さんの強い想いが感じ取れます。

 

 

長谷川さんが独学で生み出してきたテストピース

 

 

釉薬の主な原料は土や石、灰、金属などの鉱物で、それぞれの原料に「溶かす」、「繋ぐ」、「ガラス的役割」など様々な働きがあり、その組み合わせを計算し作ることで、独自の柔らかい色合いを生み出しています。例えば、「溶かす」役割が多いとマットになったり、金属のような色合いを出す役目になることも。

 

 

釉薬の原料となる鉱物たち

 

 

機械ではないので、天候や微妙な量、生地との相性でも変化する場合があります。単純なレシピが存在するわけではないので自分の想定通りの色を出す事が非常に難しいそうです。
それでも「そのかわり、奇跡的に生まれるすごくいい色があったりするのはほんとに楽しいです。」と話す長谷川さん。

修行時代は親方の調合や材料を使用していたので作り方がよく分からず、修了後独学で釉薬の知識を深め、現在工房にあるテストピースはなんと1000種類を越えるほど。
経年変化やサビ、風化したもの、岩につくコケやペンキのサイディングなどが器づくりに影響を与えるらしく、なるほど温かみを感じる質感、優しい雰囲気のある長谷川さんの器には、どことなく自然界の「抗わない逞しさ」のようなものが感じ取れます。

 

 

長谷川さんの器たち

 

 

作陶に使用するツール

 

 

SHIROUMAシリーズ(小どんぶり 月色)

 

 

さまざまな食卓にあう器

 

やちむん風の器とは別に、長谷川さんのうつわとして定番化しつつある「SHIROUMAシリーズ」は、「京都職人工房」で弊社CEMENT PRODUCE DESIGN代表・金谷との出会いがきっかけで生まれたシリーズ。

「初めて(長谷川さんの器を)使おうとする人が使いやすいと思える器を・・」という助言から考え作ったもので、飯椀から、大皿までシリーズとして取り揃えました。

 

多くの人に驚かれるのが、その絶妙な軽さ。

粗い土を用いて、かんなでバランスを整えながら削る事で、見た目のぽってりさとは裏腹に使いやすい軽量感を実現しています。

実際に私たちスタッフも長谷川さんの器を使用していますが、考え抜かれたそのバランスや使いやすさから、ついつい日々の食卓に登場させてしまうほどです。

バランスを見ながら削る

 

生地となる土には信楽の土を採用している。

 

ろくろで回しながら作陶する風景

 

長谷川さんの作る器は、人の手が生み出した温かみを感じるのと同時に、手挽きで作ったとは思えない美しさにも定評があります。

もともと、「手挽きはおもしろそう!」という好奇心から始まったろくろ挽き。

 

自身のペースを保ちながら、微妙なゆがみをあえて残し、機械では表せない「温もり」を伝えたいといいます。

その中で何度も繰り返し作り続け、トンボ(サイズを測るの器具)とバランスを見て精度をあげて、温もりと均整を保つ美しい作品を生み出しました。

 

 

 

これからの展望

陶芸作家長谷川哲也さん

 

SHIROUMAシリーズを定番化して、カラー展開などもしていきたいと話す長谷川さん。

また、将来は実家の愛知へ戻り、お客様にも足を運んで頂けるような工房を開きたいと考えているのだとか。

もしかして近い将来、長谷川さんの工房で数千種類のテストピースを眺めながらオリジナルの器をオーダー出来る日がくるかもしれません。

 

今から楽しみです!

 

 

工房風景

 

自然豊かな環境に長谷川さんの工房はあります。

 

近所の人ともすれ違えば必ず挨拶をするのどかな環境に身をおき、大変朗らかな長谷川さん。

しかし「釉薬」にこだわり探究心を持ち続け邁進する、作陶に対する姿勢はまさに職人そのものです。

 

ひとつひとつの作業に妥協を許さないその精神と、自然と共存する優しい長谷川さんだからこそ、生み出せるこのニュアンスカラーの器たち。

ぜひオンラインストアからご覧頂き、温かみのある器を手にとってみてください。

 

 

 

 

長谷川哲也(はせがわてつや)

 

1981年愛知県生まれ。京都伝統工芸専門学校で陶芸の基礎を学び、卒業後、沖縄の読谷山焼、山田真萬氏の元で5年の修業の後、独立。現在は愛知県春日井市に拠点を置く。長い間使いこんで、表情に味が出て温もりを感じ手になじむような、ところどころ傷があったりフチも欠けていたりするけど気が付いたらまたその器でご飯を食べるような、長く愛される器を作ることを心がける。京都のアンテルームにも器を

提供している。

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